研究概要 |
高等動物は高度に分化した細胞の集合体としての組織より成る構造体であるので、栄養素の生理機能を分子レベルで解析するためには細胞レベルでの研究が必要である。種々の栄養素が分化、形態形成に重要な機能を有していることが指摘されているが、この分野は従来分析的アプローチが困難であったためその機構は不明であった。近年細胞培養技術が進歩した結果、栄養学上の重要課題を研究するためのモデル系の設定が可能となった。本研究は興味ある特性をもった培養株細胞をモデル系に用いて以下のような成果を得た。 1.ビタミンA酸によって分化が誘導される胎児性がん細胞F9をモデル系とした研究:ラミニンのmRNAレベル及び分泌を分化の指標として解析した結果F9の分化誘発にビタミンA酸が必須であり、ビタミンA酸による分化は不可逆であるが次いでおこるcAMPによる分化は可逆的であることを明らかにした。分化したF9におけるラミニンの生合成,糖付加,サブユニット会合,細胞内移行,分泌の機構について新知見を得た。また分化の方向を支配するビタミンA酸の作用機作をラミニン分泌を指標として検討しビタミンA酸の濃度に依存してF9が2つの方向に分化しうることを示唆した。 2.繊維芽細胞から脂肪細胞へと分化する3T3-L1細胞モデルとした研究:3T3-L1は脂肪細胞へと分化する過程で分子量62000の蛋白質を初めとする数種の細胞構成蛋白質がカテコールアミンに依存したリン酸化をうけること,これらのリン酸化は速やか且つ可逆的であり何らかの制御に重要な役割を果していることを知った。各分化過程の3T3-L1細胞を【^(35)S】-メチオニンで標識して分析した結果、コラーゲン,ラミニン等の細胞外マトリックス蛋白質の生合成と分泌が分化に伴って変動することを知った。また0〜20mMのリチウムイオンが脂肪細胞への分化を可逆的に阻害することを明らかにした。
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