研究概要 |
大腸菌の性決定因子であるFプラスミドの安定保持機構を分子遺伝学的に解析し、プラスミド上の3つの遺伝子(sopA,sopB,sopC)に支配された分配機構が存在することを明らかにした。sopA,sopBはそれぞれ41,35kdの蛋白をコードする。またSopC領域には43塩基対よりなる12個の直列反復配列が存在する。精製したSopB蛋白はこの反復配列に結合する性質を持つ。またSopB蛋白は【Mg^(++)】存在下で膜分画から回収される。一方、このプラスミドの分配には宿主遺伝子の機能も関与していることが明らかになった。ミニFプラスミドを安定に保持できなくなった宿主変異株を多数分離し解析した結果、5連関群に分類できた。そのうちの4連関群においてはミニFプラスミドDNAの物理的形態は正常であり分配機構の変異であるといえる。しかし第5の連関群に属する変異株では、ミニFの直鎖多量体DNAが蓄積しており、ローリングサークル型の異常複製がおこっている。前記の4つの連関群の遺伝子をクローニングして、詳細に解析することによって、分配機構の全体像が明らかになってくるものと期待される。 第2の安定保持機構(ccd機構)はプラスミド上の2つの遺伝子ccdA,ccdBにより支配されており、プラスミドを脱落した細胞を致死にする機構であることを明らかにした。CcdB蛋白は細胞を致死にする働きを持ち、CcdA蛋白はCcdB蛋白の機能を抑制する働きがある。プラスミドを脱落した細胞では、細胞増殖にともなってCcdA蛋白の稀釈、失活がおこり、CcdB蛋白の致死効果が現われ、細胞が死ぬものと考えられる。上記の2つの機構に類似の機構が他のコピー数の少ないプラスミドに普遍的に存在するものと推測される。
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