ショウジョウバエ初期胚(産卵後20分±20分)の細胞質より分離したpoly(A)^+RNAは、紫外線照射により極細胞(生殖細胞として決定されている細胞)形成能を失わせた胚に、その能力を回復せしめることが出来る。すなはち極細胞形成因子はRNAであると考えられた。本研究は、このpoly(A)^+RNAに対するcDNAライブラリーをつくることからはじめ、これを次ぎの様な2段階のスクリーニングにかけた。第一段階は、極細胞形成能を有するpoly(A)^+RNAがステイジ特異的存在様式をとることが判明したのでこれを利用し、産卵後20分の胚には存在するが、150分には存在しないpoly(A)^+RNAとハイブリダイズするcDNAクローンを選択した。第二段階としては、得られたステイジ特異的cDNAクローンをさらにその極細胞形成能の有無によって選別した。このような選別によって得られたクローンは、0.6kbの長さのDNAで、ノーザン・ブロット解析により、もとのRNA(1.5kb)の一部を代表するものであることが明らかになった。このcDNAの塩基配列を決定し、既知の遺伝子の中に類似のものがあるかどうかをコンピューターによりデータ・ベースを検索したところ、ミトコンドリアのrRNAのうち、23Sのものと極めて高いホモロジーがあることがわかった。さらにサザン・ブロット解析などを行ったところ、ここに得られたcDNAとホモロジーのある塩基配列は、核のDNAには存在しないことが明らかになった。以上の結果から、現段階では極細胞形成因子の一つはミトコンドリアの23S(larger)RNAであると考えられ、恐らくはこのlarge rRNAが、なんらかの機構によって胚の後極においてのみミトコンドリア外に搬出され、mRNAとして働くのではないかと想像している。今後さらに研究を続けることにより、従来全く知られていなかった生殖系列の決定機構を明らかにすることが出来ると考えている。
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