研究概要 |
我我の多年の研究結果によれば、一般にイネ科植物は鉄欠乏ストレスに際して多量のムギネ酸(MAと略記)系キレート剤を根から分泌し、土壌中の不溶性鉄(【III】)を可溶化、吸収する。本研究では、以上の仕組みの詳細に関する本格的な検討を進める上の足場の構築を目指し、次の4課題を設定した。 1.高速液体クロマトグラフ(HPLC)によるムギネ酸類分析法 HPLC(島津LC-4A,59年度経費で購入)によるオオムギ根分泌物中MA類の高感度分析法(アミノ酸用カラム,OPA発色,蛍光検出)を開発した。本法は、以下の諸実験で多用され本研究の推進に大きく役立てられた。 2.鉄欠乏オオムギ根におけるムギネ酸類の生合成経路 【^(15)N】標識アンモニアの経根投与実験を通してMA生合成経路上に位置する中間体アミノ酸を推定し、これに基づき【^(14)C】標識アミノ酸の投与実験を行った。その結果、アスパラギン酸〜メチオニンが主要中間体として浮上した。また【^(15)N】-アンモニア投与実験の結果、経路上で最初に生ずるMA類は2'-デオキシMAで、次いでMA,3-エピヒドロキシMAと順次変換することが示唆された。 3.鉄欠乏オオムギ根におけるムギネ酸類の分泌機構 オオムギ根のMA分泌は、過去約1昼夜にわたり根内で合成された多量のMA類が、【K^+】の共輸送を伴う能動輸送系を介し、夜明け後まとめて一挙に放出されると言う現象であり、その輸送系の作動は植物自体の内生リズムと外界の温度情報により、時間的に制御されているという結論を得た。 4.根圏土壌中におけるムギ根酸類の挙動 MA類は一般のsiderophoreや合成キレート剤に比し割合低分子で、Fe(【III】)錯体生成定数も著しく低いが、Ca及びAlとの結合性を殆んど欠くために高pH土壌から最も効率的に鉄を溶出しうる。MA類の鉄溶出効率の低下を招く主因の一つに根圏での微生物分解が挙げられる。
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