研究概要 |
動物パルボウイルスのなかで、ネコ汎白血球減少症ウイルス(FPLV),ミンク腸炎ウイルス(MEV)およびイヌ・パルボウイルス(CPV)はウイルス学的,血清学的にきわめて近縁であるが、生物学的には3者の間で異なる性状を有することが知られている。とくにCPVは1978年に突如として出現した新しい病原体として注目され、その起源に強い関心がもたれている。本研究ではこれらパルボウイルスの類似点と相違点を、3者間でみられる生物学的性状の差異を指標とし、細胞内の増殖型2本鎖(RF)DNAの分子生物学的研究によって解明しようと試みた。まずこれら3ウイルスの諸性状を比較検討した結果、交差HI反応,MDCK細胞での増殖性および各種動物赤血球凝集性において、MEVはFPLVとほゞ同一の性状を示したが、熱抵抗性とDNA制限酵素切断後の泳動像はCPVと同じであった。次に、MEV RF-DNAのほゞ全領域のクローニングされているプラスミドOPHMEVを用いて、全DNAの約70%に相当する3,510ヌクレオチドの配列を決定し、3者間の相同性を比較したところ、FPLVおよびCPV DNAで高いホモロジーが認められたが、MEVはCPVよりもFPLVと僅かではあるがより高いホモロジーを示した。一方、POHMEVのトランスフェクションによるネコ腎株化細胞におけるウイルス遺伝子の発現を調べたところ、MEV感染細胞にみられる核内封入体の類似物の形成と、ウイルス蛋白質VP-2およびVP-2'の産生が認められた。さらにMEV DNAの複製も観察されたが、感染性ウイルス粒子の産生は認められなかった。今後、感染性ウイルス粒子の産生される培養系に改良することによって、各パルボウイルスの病原性,宿主域,免疫学的差異などの分子レベルでの解析が可能となるであろう。
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