反復暑熱負荷による短期暑熱順化における発汗能増進の機序として、中枢性発汗神経衝撃の増大と、末梢性に汗腺の汗分泌能の高進とが起こりうるが、両者の相対的な重要性は暑熱順化様式の相違により異なると考えられる。本研究では、一般体表面の汗の拍出の出現頻度(【F_(SW)】)を中枢性発汗神経活動の指標とし、種々の様式による順化操作の前後に、(1)平均体温と【F_(SW)】、(2)【F_(SW)】と全身発汗量との相関を求め、中枢性、末梢性変化の相対的関与度を比較検討した。順化操作として、原則として直腸温を約38゜Cに保つcontrolled hyperthermiaによる90分間の暑熱負荷を9日間続けた。暑熱負荷には、各4名の男子被検者につき、1.乾式加温(【H_D】法)、2.湿式加温(【H_W】法)、3.運動負荷(W法)、4.乾式加温と顔面冷却(【H_D】-F法頭部を除く皮膚温を38〜40゜Cに温めつつ顔面冷却により鼓膜温を約37゜Cに保つ)、5.運動負荷と顔面冷却(W-F法W法に顔面冷却を併用し、鼓膜温を約37゜Cに保つ)を用いた。【H_D】法及び【H_W】法では、操作後の発汗反応は増大傾向が認められ、半数例では著しく増大し、(1)を表す回帰直線が有意に左方に移動したが、(2)を示す回帰直線は、1部でその勾配に軽度の増大を示すのみであった。すなわち、中枢性発汗活動の閾値が低下し、末梢性変化は少なかった。皮膚加温が軽度(平均皮膚温35〜38゜C)なため、汗腺訓練効果の出現に長期間を要する両方式に差が現れないと推察され、中枢性機序には両方式の間に相違はないと考えられた。W法では、一般に発汗反応が著増し、(1)を示す回帰直線は大きく左方へ移動したが、(2)は変化せず、発汗能の増大は専ら中枢性発汗活動の閾値低下によると推定された。【H_D】-F法、W-F法では、順化操作後の発汗増進は全くないか、または軽度であった。この結果より、鼓膜温が脳温を反映し、体幹部深部体温が上昇していても脳温が上昇しない条件での反復暑熱負荷では暑熱順化が成立しにくいと推論された。
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