simian virus40の初期遺伝子を含むプラスミッドpSV3gptを骨髄造血域支持細胞に燐酸カルシウム法を用いて導入し、5株の単一細胞株を得た。これらの細胞株はラジオイムノアッセイやnorthern blot hybridizationにより、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)や単球コロニー刺激因子(M-CSF)を産生している。また培養濾液の検索から未分化造血幹細胞の増殖分化を刺激するヒト幹細胞増殖因子を産生していることが判った。この因子を精製しアミノ酸分析を行なったところN末端配列29番目まで顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)と酷似していた。インターロイキン3産生に関しては現在のところ不明である。ヒト骨髄支持細胞株はヒトの骨髄系血液細胞株であるKG-1やHL-60と特異的に結合し、それら細胞株の増殖分化を抑制する。しかし、支持細胞株はTおよびBリンパ系細胞株との結合は認められず、又、骨髄系血液細胞株は胸腺由来間質細胞株やリンパ節の間質細胞株との結合は認められなかった。これらの細胞間相互作用は特異的で細胞膜表面の分子を介する制御と考えられた。さらに、Lucifer vellowを用いた形態学的観察から、骨髄支持細胞同士、支持細胞と円形血液細胞の間にギャップ結合が存在し、それら細胞間に低分子物質の移動が見られることを確認した。しかしこの意義については、現在のところ不明である。 以上、我々の検索からヒト骨髄支持細胞にIL-3を除く造血因子産生能のあること、また、細胞間相互作用が造血細胞、造血域支持細胞間に存在することを示した。現在造血域支持細胞を取り巻く重要な問題は支持細胞が多能幹細胞の維持、増殖分化にどの様な機構を介して関わるかということで、支持細胞のシグナルはIL-3が関与するものか、全く別の因子によって制御されるのか、あるいは、GM-CSFを巻き込んだ別の機構が働いているかに関し、今後、研究を進めたい。
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