研究概要 |
先に我々は、Buffalo/Mna系ラットに胸腺腫、筋萎縮及び腎糸球体硬化症が自然発生することを見い出した。今回行ったACI系ラットとの交配実験により、この胸腺腫は、主として單一常染色体性優性遺伝子Tbm-1によって統御されていることが明らかになった。このような遺伝的背景を持つ本系ラットに新生仔期胸腺摘出または無胸腺遺伝子(ラットヌード遺伝子,rnu)の導入を行って、胸腺腫と筋萎縮及び腎糸球体硬化症の発生に関する因果関係を檢索した。生後3日における胸腺摘出は筋萎縮及び腎糸球体硬化症の発生に影響を及ぼさなかった。さらに無胸腺遺伝子を導入したBuffalo/Mna-rnu/+ラットには殆んど胸腺腫が発生せず、腎糸球体硬化症の発生も著しく抑制されたにもかかわらず、筋萎縮は対照のBuffalo-+/+ラットと同様高率に発生した。これらの実驗結果から、本系ラットに発生する筋萎縮は胸腺腫発生に伴う隨伴症ではなく、全く独立の疾患であることが明確になった。しかし無胸腺遺伝子による胸腺腫発生の抑制機序、胸腺腫発生と腎糸球体硬化症発生の連関機序などの解明が今後の研究課題となった。 一方胸腺腫そのものの本態解明のため、細胞生物学的檢索を行った。Primary cultureにおける胸腺腫上皮細胞は、正常胸腺上皮細胞に比し、約2倍大の細胞質を持ち、胸腺リンパ球の増殖をConA非存在下で刺戟する分子量約10,000のポリペプタイドを分泌する、機能性腫瘍の性格を持つ細胞であることが判明した。胸腺及び胸腺腫上皮細胞は長期培養が非常に困難な細胞であるが、培養液に10nMのデキサメサゾンを添加することにより、小紡錘形細胞から大多角形細胞に変形し、恒常的な培養細胞が得られるようになり、胸腺上皮細胞6株,胸腺腫上皮細胞6株のクローン化した細胞株を樹立した。今後これらの細胞株を使用して、分子生物学者と共に、胸腺腫の分子生物学的解析を進める予定である。
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