研究概要 |
インフルエンザB型ウイルスから、NS遺伝子に変異をもつクローン201を分離し、このNS遺伝子の一次構造の変化と、ウイルスの生物学的性状の変化との対応を行った。クローン201は、A/愛知/2/68とB/山形/1/73との反覆交配によって得られた、細胞破壊能のきわめて強いウイルスである。クローン201は、培養細胞でも発育鶏卵でもよく増殖するが、感染後早期におこるCPEのために、ウイルスの一段増殖は感染後9時間で止まってしまう。201とB/Leeとのリアソータントの解析によって、クローン201のもつ強い細胞破壊能は変異したNS遺伝子の機能に基づくことが明らかになった。クローン201のウイルス蛋白の、野生型との電気泳動上の唯一の違いは、野生型の【NS_1】(分子量39,800)に対応する蛋白がクローン201には認められないこと,野生型の【NS_2】に相当する位置(分子量19,000)に1本の濃いバンドが認められる点である。NS蛋白にこのように大きな変化があるにも拘らず、ウイルスRNAは、201の第8分節(NS遺伝子)の電気易動度が、野生型の対応する分節の易動度よりもごく僅か大きいというに止まった。NS遺伝子の全塩基配列を決定しこれを解析したところ、201のNS遺伝子ではプラス鎖の374〜386にかけて13個の塩基の欠落があり、ここから下流におこるframe shiftのために【NS_1】の翻訳が途中で止まってしまい、僅かに127個のアミノ酸から成る蛋白ができる(これに対し野生型の【NS_1】は281個のアミノ酸から成る)ことが明らかになった。【NS_2】は塩基の欠落の影響をうけないから、野生型と変りない。このことは、インフルエンザウイルスの【NS_1】のC末側半分以上がウイルスの増殖にとって不可欠でないということを示唆するものである。クローン201の強い細胞破壊能が【NS_1】のdeletionによるものか、それともこれとは別にプラス鎖の186,313番目等の塩基に存在する点変異によるものかは、今の所明らかではない。
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