ヒト肝組織、肝癌細胞における糖鎖抗原の発現、分布を明らかにする目的で以下の研究を行なった。1.肝組織、肝癌組織より糖脂質を抽出し比較検討し癌化に伴い糖脂質に偏位の生じることを明らかにした。2.構造の明らかな糖鎖抗原として血液型関連抗原をとりあげ、その発現、分布を検討以下の結論を得た。1)正常ヒト肝組織では肝細胞は血液型関連抗原を発現せず、胆管上皮は発現する。2)胆管上皮はtype 1 chainの諸種血液型およびtype 2 chainの内【Le^y】を発現する。3)胆管の径の違いにより発現される血液型抗原の差異がある。これは胆管上皮の間にも糖鎖表現型に差異のあることを示している。4)増生細胆管は正常細胆管と異なる血液型関連抗原を発現し、糖鎖表現型において両者は異なっている。これは良性疾患においても糖鎖の異常の生じる事を示している。5)一部の肝癌細胞で血液型関連抗原の発現が観察される。それ等はtype 1 chainのみならずtype 2および3 chainでもあり得る。6)混合型肝癌において発現される血液型抗原の観察より混合型肝癌は肝細胞由来であることを推測し得た。 RCA-1およびPNAレクチンアガロース・アフイニイテイクロマト法で肝癌腹水から得られた抗原は、比較的肝癌特異性があったが、他臓器癌および肝硬変症でもそれらの血中に検出された。 HBV-DNAと発癌との直接的関連性はみられず、非癌部に組込みがあって、癌部に組込みのない症例もみられた。HBV-DNAの組込まれ方をみるためのサブゲノムプローブをもちいた検討では、マイナス鎖が合成されつつある時に組込まれる可能性を示す成績がえられた。また、C遺伝子の欠除が著しく、C遺伝子にコードされた蛋白(C抗原)が肝炎の標的抗原になっている可能性が示唆された。HBV-DNAの末梢単核細胞への組込みもみられ、免疫応答への影響も考えられた。
|