アルコール(Al)性肝障害の発生要因のひとつとして、エタノール(E+OH)の代謝物であるアセトアルデヒド(Ac-CHO)の役割が重要視されてきている。肝におけるAc-CHOの産生には、アルコール脱水素酵素(ADH)を介する系と、それ以外の(non-ADH)系の2つの経路がある。昭和59、60年度の本研究で、non-ADH系産生性Ac-CHOが、ADH系産生性のそれよりも明らかに遅く、このためAl長期摂取によって肝内Ac-CHOが増加し、肝微小管の減少を来し、Golgi装置の機能も障害され、肝内分泌蛋白(特に糖蛋白)の肝細胞内貯留が生じ、このことが肝細胞の風船様変化、さらにはその壊死を生ずる可能性を明らかにしてきた。本年度では、ヒトのAl負荷時におけるAc-CHO代謝、ラットAl性肝障害における糖蛋白分泌動態の検討により、non-ADH系産生性Ac-CHOの肝障害性をより明らかにすることを目的とした。ヒトにAlを負荷すると、飲酒後ではE+OH代謝率は亢進し、肝障害が存在すると、飲酒の有無にかかわらず血中Ac-CHO濃度は高値を示した。Ac-CHO代謝の指標と考えられる血中Ac-CHO/E+OH代謝率の比は、Al性肝障害で高値を示した。このことは、Al性肝障害ではAc-CHO代謝で遅延するが、このことはラットと同様にnon-ADH系産生性Ac-CHO代謝の遅延によっていることが示唆された。 Al性肝障害における糖蛋白の分泌動態を検討すると、アルコール・ピラゴール肝炎では肝内Al-CHOの増加とともに、糖蛋白の血清への分泌は障害され、同時に肝内、とくにGolgi装置での貯留が認められた。^<14>C-leucineと^3H-fncaseでは糖蛋白の分泌障害の際の動態はやや異っていたが、これらのことは、Al性肝障害においては、糖蛋白の細胞内での移送過程における障害と同時に、Golgi装置におけるglycosylationの障害と分泌障害の機序とが大きく関連していることを示唆していた。
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