研究概要 |
核磁気共鳴(NMR)分析法を病態解析に応用するために、被検体である生体試料の測定条件を検討し、それをもとに腫瘍のプロトン(【^1H】)核磁気共鳴緩和時間(【T_1】,【T_2】)について解析した。 A.組織,血液,尿の保存状態と測定条件:試料採取後ただちに凍結保存し、24時間以内に室温で徐々に解凍した場合、【^1H】緩和時間(【T_1】,【T_2】)にほとんど変化はみられなかった。血清のNMRスペクトルで乳酸のピークを判定するには蛋白の存在が障害となる事が判った。この時、トリクロル酢酸またはフィルターで血清を除蛋白することにより、内部標準を用いて乳酸値を測定できるようになった。 B.腫瘍の成長過程にける【T_1】と【T_2】の変化:一般に腫瘍緩和時間は正常組織よりも延長するが、その逆の場合も起こりうる。この現象を解明するひとつの手段として、家兎膀胱に【VX_2】腫瘍を移植して経時的に【T_1】と【T_2】を測定した。対照群の正常膀胱では【T_1】,【T_2】ともに常に一定の値を取ったが腫瘍群の腫瘍組織の【T_1】は正常群に比して延長していた。しかし、【T_2】では正常群との間に差はみられなかった。一方、担癌膀胱の非腫瘍部の【T_1】と【T_2】は腫瘍部に比して早期〜中期までは短縮していたが中期から末期になるとむしろ延長することが認められた。これら緩和時間の変化を組織内水分含量と対比すると、正常膀胱と担癌膀胱の非瘍部では両者に明らかな相関がみられ、水分の増加に伴って緩和時間が延長することが判った。しかしながら腫瘍部では全体として水分と緩和時間との間には相関を認められず腫瘍の成長にともなって、NMR上の性質が刻々と変動し、それは腫瘍組織の【^1H】の構造化の変化によるものと考えられた。 以上の結果からNMRは生体試料を非破壊的に化学的分析することができ、各疾患の病態解析に有用と考えられた。
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