研究概要 |
成熟児の陣痛発来前の選択的帝王切開分娩時に母体血,臍帯血,羊水および新生児初回尿を採取しdopa,dopamine(DA),norepinephrine(NE),epinephrrine(E),DOPACを測定し成熟胎児の恒常状態における各物質の正常値を求めた。さらにそれらの値を昭和59,60年に得られた正常分娩,胎児仮死を中心とした異常分娩の値と比較することにより、分娩経過中の胎児cate-cholamine(CA)の動態を総合的に解析し、fetal stress評価の上で胎児CA測定の意義を明確にした。また初回尿から生後7日までの新生児尿を検討し、生後5時間後のEを中心とした各CA分画の増加から新生児適応過程におけるCAの特有な変動を明らかにし、胎児から新生児に至る一連の周産期CA動態を把握した。さらに呼吸障害児の検討から、Eが児の呼吸機能に強く関与している可能性を推察した。 つぎに母体値-胎児血-羊水-胎児尿中の各CA分画値の相関を検討した結果、dopa以外は母児相関に乏しく、母児はそれぞれ独立したCA環境を形成している事を確認した。また羊水中に認められた高濃度のDAは胎児腎で、血中dopaより合成されることを認め、動物実験においても胎仔腎にDA合成酵素の豊富な存在を証明した。さらにヒト卵膜にはDAを生物学的には不活性なDOPACに変換する酵素monoamine oxydase(MAO)が多量に存在し、胎児尿を介して羊水中に多量に排泄されたDAは、卵膜MAOにより代謝されている事を認め、羊水中DAの産生ならびに代謝の機構を明らかにした。 その他、ラット胎仔における低酸素負荷実験により、脳エネルギー産生に必須な脳グルコースは減少したが、前処置としての経母体的グルコース投与により、その濃度は高値を維持し、非投与群に比較し脳ATP量の減少は軽微に止まった。なわち経母体的グルコース投与による無酸素性脳症予防の可能性を認めることが可能であった。
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