研究概要 |
[研究の目的]当初の目的は、正常及び放射線照射後の各臓器組織の実質細胞と間質の血管内皮を中心とした細胞再生率を求め、人を含めた組織臓器の晩発性放射線障害の潜伏期と耐容線量について考察を行うことであった。 [今年度の実施内容]2年間の進捗状況の見直しから、当初の膨大な各組織臓器のデータを蓄積する計画を修正し、膵実質の細胞再生と膵島を中心とした細胞死に関与する内因的要因の探求から(即ち、放射線細胞死の修飾効果より探索)細胞の放射線障害を検討していくことに軌道修正した。そしてこの細胞死発現から他の腸上皮を中心として肺胞細胞細尿管,リンパ球,卵母細胞等との細胞障害の比較検討を行うことにした。 [成果の内容]1.膵の三実質(膵管,腺房,膵島)の包括的な細胞再生について取りまとめの作業を行い、2.報の論文として公表の運びとなった(1986,1987)。内容的には初年度,次年度の報告と重複するので省略する。 2.膵島,腸上皮等の一群の特定の組織では、細胞再生率から組織の放射線障害を説明するのではなく各組織の細胞に特有な代謝等の内因的要因から解決するのが妥当であると結論するに至った。膵島では種々の阻害剤や代謝基質の投与により細胞死が修飾され、膜,タンパク合成,糖エネルギー代謝等が細胞死発現に深く関与している結果を得た。これに対して腸上皮,リンパ球では全くもしくはわずかしか関与していない。 これらの結果は急性細胞死が生じやすい膵島細胞,リンパ球,腸上皮細胞,卵母細胞等の間での比較検討、更には細胞の機能昂進が生じる肺胞細胞や感受性が高いと言われる細尿管細胞との比較検討に重要なデータを提供できたものと考える。即ち細胞再生率からの視点とは異なった観点からの細胞組織の放射線障害を見直す糸口となり得るものと思われる。
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