本研究は卵細胞を用いて細胞質分裂の機構を分子のレベルで解明しようとしたものである。第一のアプローチは、ウニ卵のアクチン調節タンパク質の探索を通して、収縮環の形成のメカニズムを探ることであった。成果としては、7種に及ぶアクチン調節タンパク質を発見、単離・精製してその性質とともにアクチンとの相互作用を試験管内で調べたことである。(1)45Kタンパク質-アクチン複合体。アクチン繊維のbarbed endをキャップしてアクチンの重合、繊維の会合を調節する。(2)α-アクチニン。Caイオン不在下でアクチン繊維同士を架橋し、繊維束を形成する。(3)100Kタンパク質、Caイオン存在下でアクチン繊維を切断する。(4)250Kタンパク質。Caイオンに無関係にアクチン繊維を架橋する。(5)20Kタンパク質-アクチン複合体。アクチン繊維のbarbed endをキャップしてアクチンの重合、繊維の会合を調節する。細胞膜の裏側に結合しており、アクチン繊維の細胞を細胞膜に結合させていると考えられた。(6)スペクトリン。アクチン繊維を架橋する。カルモデュリンを結合する。(7)15Kタンパク質。Ca結合タンパク質であり、微小管にも結合性を示し、分裂装置に分布する。以上のうち20Kタンパク質以外は細胞質画分から得られた。このうちα-アクチニンについては蛍光試薬で標識し、生きた卵中に顕微注入してその動きを追った結果、分裂時には分裂溝に濃縮された。また20Kタンパク質も蛍光拡体法により分裂溝に濃縮されることが分かった。従ってこれらが収縮環の形成に深く関っていると推定された。第二のアプローチはイモリ卵の分裂溝を単離し、その収縮のメカニズムを探ることであった。結局、分裂溝の単離に成功し、その中で平行に並んだアクチン繊維が複数種の架橋タンパク質により架橋されていることを明らかにした。また試験管内で単離分裂溝の収縮を誘導することに成功し、これがアクチンの阻害剤により阻害されることを示した。
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