研究概要 |
研究の主目的は、医用高分子の一つとして最近注目されている生体分解吸収性の肪肪族ポリエステル類の重縮合と開環重合による合成およびその物理的,化学的性質を明らかにすることである。生体分解吸収性高分子については、これまでにもいくつかが知られており、ポリラクチドもその一つである。しかし、ポリラクチドが臨床応用可能な医用高分子となるためには、さらに多くの基礎的合成研究の集積が必要である。そこでわれわれは、種々のポリラクチド類の合成条件を詳しく調べるとともに、得られた重合体の基本的性質である熱安定性を検討し、それらの結果に基づいてポリラクチド繊維を紡糸した。得られた主な成果は次の通りである。 L-乳酸を無触媒下で脱水重縮合するだけでも、重合条件を選べば、重量平均分子量が約2万のポリ-L-ラクチドの合成できることを明らかにした。さらに、重合触媒にオクチル酸スズを用いて乳酸のオリゴマーの解重合によって合成されるラクチドを開環重合すると、重合温度,重合時間,触媒などの条件を選ぶことによって分子量を約40万まで高めることを示した。また、この際、高温では重合とともに解重合も起こることを明らかにした。次に、ポリ-L-ラクチドを200℃にて溶融紡糸し、熱延伸および熱処理条件を選ぶことにより、最高70Kg・【mm^(-2)】の引張強度をもつ繊維を得ることができた。このポリ-L-ラクチド繊維の加水分解を37℃にてpH7.4の緩衝液中で行い、9ケ月後においても重量減少は認められず、引張強度が約20%だけ低下することを明らかにした。この結果は、このポリ-L-ラクチド繊維は、現在、臨床的に使用されている合成吸収性縫合糸のポリグリコリド繊維よりもはるかに高い耐加水分解性を有することを示している。
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