研究概要 |
海洋生態系において植物プランクトンの光合成によって生産された有機物は、バクテリアにより分解され消失する。その過程でバクテリアの現存量は増大する。系が安定であるためには、そこにバクテリア捕食者が存在し、腐食連鎖系が成立している筈と考えられる。本研究では、これまで殆ど不明のまゝに残されてきた腐植連鎖系におけるバクテリア捕食者としての動物性ナノプランクトンの実態と生態的役割を明らかにすることを目的とした。 研究方法としては、光学顕微鏡に加えて透過・走査電子顕微鏡を多用してきたが、さらに螢光染色法による微小動物・植物プランクトンの識別、それらの微小プランクトンとバクテリアを同一視野内で高い感度と精度で、かつ簡便に識別し、定量する方法を開発した。ほかに有機化学的手法をも用いた。以上の手法を用いて、材料として、大阪湾,南極海,北部太平洋,ベーリング海からの天然試料を解析し、次のような知見を得た。 南極海において、動物性ナノプランクトンの現存量は、全プランクトン量の0〜25%(平均7%)を占めた。主要構成生物の襟鞭毛虫は、不飽和脂肪酸および必須アミノ酸含量が高く、他の捕食生物、ナンキョクオキアミにとっては有効な餌であると判断された。この事実は、南極海生態系における食物連鎖には、従来の無機栄養塩-植物プランクトン-動物プランクトン-鯨系の他に、溶存有機物-バクテリア-動物性ナノプランクトン-ナンキョクオキアミー鯨系が存在することを実証するものである。北部太平洋、ベーリング海にも、大阪湾にも、これら動物性ナノプランクトンが普遍的にかつ多量に分布していることも明らかになった。海洋生態系では、これらバクテリア捕食者が広く分布し、主要な群集構成生物であり、重要な生態的役割をはたしている実態を解明することができた。
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