研究概要 |
クリオグロブリンは慢性感染性疾患、自己免疫性疾患そして骨髄腫瘍などの患者血清中に稀に見出される免疫グロブリンの変種で、体温以下の或る温度で凝集し、ゲル化または不溶性の沈澱を形成する性質をもつことから臨床面において循環障害の原因として重要視されている。温度依存性の不溶性化の機構は、分子構造上の興味から多くの研究が試みられてきたが、その特性を説明しうる結論は得られていない。クリオグロブリン1gG3及びIgMに検出される頻度が高く、自己抗体活性を有するもの、多クローン性のものもあるが、本研究では単クローン性クリオグロブリン標品で、IgG3及びIgMに属し、既知の抗体活性の認められないものを用いて、その自己会合性の分子機構を明らかにする目的で検討を進めてきた。これらの蛋白は、その一次構造、分子形状等に関する知見からは、同一クラス,サブクラスのミエローマ蛋白と比較して、クリオ沈澱性を説明しうる差異が見出されないことから、極めて微小な局部的構造の変化に起因するものと考えられ、対照との比較から、免疫化学的性状,高次構造ならびに流体力学的性状,さらにクリオ沈澱の阻害効果等を中心に検討を行った。その結果を集約すると、1.クリオグロブリン分子間の会合は、同一分子間にのみ生じ、高度に選択的であること、2.分子運動論的に剛直性を示すこと、3.芳香族アミノ酸残基が関与する可能性、4.温度依存性の高次構造変化に対照との差異が見出されることなどである。未だ結論には至っていないが、上記に加えて、非荷電性の極性分子であるニコチン酸アミド及びその誘導体がクリオ沈澱の阻害効果をもつことを見出し、さらに抗体-抗原沈降物形成にも同様の効果を示すことから、免疫グロブリン分子間相互作用における疎水性アミノ酸残基の重要性が示唆され、生物学的機能発現と分子会合機構の解明の手掛りの一つとして研究を進める計画である。
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