ヒト造血器腫瘍細胞の分裂および増殖にとってDNA合成は最も重要な過程である。本腫瘍のDNA合成はde novo経路に主として依存していることが明らかとなった。この経路の律速酵素であるリボヌクレオチド環元酵素(RR)の活性は腫瘍細胞の増殖速度を反映する。しかし細胞抽出上清を用いて測定された酵素活性は必ずしも細胞内での活性を示していない。そこで細胞内でのCDP環元酵素(CDPR)活性の測定法を開発した。0.025Mショ糖中に浮遊させた細胞をDEAEdextran(1mg/ml)で15分間処理することによりCDPおよびATPが細胞膜を通過しうるようになり、細胞を破壊することなくCDPR活性測定が可能となった。この方法を用いて測定した種々の培養株のCDPR活性は抽出上清を用いた活性の1.5〜3.5培高い活性を示し、活性と細胞増殖速度の間には正の相関がみられた。抽出上清で活性が低下する要因として酵素を構成するサブユニット(S)の分離が考えられた。そこでMOLT3を大量培養し、Blue Sepharoseを用いて触媒作用部位をもつM2-Sと活性調節部位をもつM1-Sを分離精製した。Sはそれぞれ単独では活性を示さないが、両Sを加えると活性を示した。つぎに種々のヒト造血器腫瘍細胞の抽出液にM2-Sを加えると、CDPR活性は加える量に比例して活性は増加した。またM1-S/M2-Sと、insituのCDPR活性との間には負の相関がみられた。したがって活性の比較的低い細胞ではM2-Sに比し、M1-Sが相対的に多く、活性の高い細胞ではM2-Sは相対的に少いことを示している。以上よりいずれのヒト造血器腫瘍細胞のRRでも、M1-SはM2-Sに比して過剰にあり、化学療法は少ないM2-Sを阻害する方が、より強力な細胞増殖抑制効果が期待できると考えられる。
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