研究概要 |
近年、教室では一連のエネルギー代謝実験の結果に基き、手術後、および糖尿病や慢性肝障害を伴う患者の栄養管理に脂肪乳剤を用い、耐糖能異常を伴うことの多いこのような病態下で好ましい結果を得ている。しかし、糖尿病,急性肝障害,敗血症などの特殊な代謝異常を伴う病態に対してはより慎重な脂肪乳剤の投与が必要と考えられ、本研究では脂肪の代謝に重要な役割を果すcarnitineの動態を中心に検討を試みた。糖尿病におけるcarnitineの動態の特徴はfree carnitineの肝への著明な集積と筋におけるshort chain acylcarnitineの増加であり、肝における脂肪酸の酸低亢進と筋におけるケトン体利用の増加が示唆された。敗血症時には脂肪の利用が強く抑制されているとするO'pannel,Longらの見解に対し、著者の実験では、外因性脂肪の利用はある程度の抑制を受けるもののなおかなりよく維持されていることが示唆された。一方、筋,肝においてcarnitine濃度の低下を認め、これを敗血症時の脂肪利用の一部の低下の原因のひとつとして注目し、L-carnitineの大量投与による是正を試みたところ、筋組織中で低下していたcarnitine濃度を対照値まで回復させることができた。さらに敗血症ラットにL-carnitineを脂肪乳剤に併用してそのエネルギー代謝を検討した結果、敗血症で低下していた脂肪乳剤のエネルギー代謝は対照ラットの値近くまで回復することが認められた。急性肝障害時には肝、および筋でfree carnitine濃度の低下がみられた。このような病態に対してL-carnitineを投与して肝組織中のcarnitine濃度の増加、筋組織中濃度の回復を認めた。以上の実験成績は、糖尿病,敗血症,急性肝障害などの代謝異常を伴う病態における脂肪乳剤のエネルギー代謝という問題にいくつかの知見を加えるとともに、脂肪乳剤の利用促進にcarnitineの補充投与という新しい治療法が検討に値することを示している。
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