ネズミの足蹠試験にて人工材料の抗原性をみると3カルシウム燐酸セラミックスに対して免疫記憶を持った特異的な免疫反応を認めた。この反応は2日間継続し、遺伝的には主要組織適合抗原の領域によって支配されていた。同様な足蹠腫脹はAWガラスセラミックスによっても引き起されたが、AWガラスセラミックスを過量に投与すると数日後に死亡するネズミが出現し、【LD_(50)】は750mg/kgと考えられた。この反応の機構は不明である。 人工材料に対する吸着を、球状タンパク質としてチトクロームcを用いて解析すると、ラニグミュアの等温吸着式に従う吸着様式を示した。この吸着の過程においてシリカがチトワロームを直接あるいは間接的に酸化ないし還元する反応が起った。このような反応が人工材料に対する局所炎症反応の初期機構である可能性が示された。 シリカに対する血清タンパク質の吸着を電気泳動を用いて解析すると血清中の分子量約13万のバンドがシリカに対して特異的な吸着を示し、塩の濃度勾配では溶出されなかった。このようなタンパク分子の生体内での役割りについては検討中である。すでに行なわれた人工股関節全置換術後の患者にみられる〈ゆるみ〉と免疫あるいは炎症反応が関係するかどうかを調べるため、患者の組織適合抗原のタイピングを行なうと、〈ゆるみ〉と直接に関連する遺伝子座の存在は明らかではなかった。 以上のような諸事実は現在広く使われている高密度ポリエチレンとメタワリレート樹脂および金属から成る人工関節はともかく、無機質セラミックスの臨床応用には慎重な実験によるデータが不足していると思われた。
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