平滑筋の収縮機構を分子レベルで明らかにする研究の基礎となるミオシンの構造分析を行った。ミオシンは2種類の軽鎖4本と重鎖2本から構成される巨大分子である。軽鎖については我々がすでにその全構造を決定し報告しており、本研究では重鎖について分析を行った。 1.ニワトリ砂のう筋ミオシンをATP存在下でIAEDANSによって修飾し、トリブシンで限定消化した。分解物から、Sephadex G-100のゲル濾過およびCM52カラムクロマトグラフィーを用いて、重鎖のN末端部に由来する分子量約24000のフラグメントを単離し、その全一次構造を一般的な方法を用いて決定した。このフラグメントは203残基のアミノ酸から構成され、N末端αアミノ基はブロックされていた。翻訳後に修飾されて生じたε-N-トリメチルリジンが骨格筋のものと相同する位置に存在していたが、ε-N-モノメチルリジンは存在していなかった。また、骨格筋ミオシンでATP結合部位の1つと報告されているTrp-130は、砂のう筋ミオシンではグルタミンに置換されていた。IAEDANSで修飾されたシステインはN末端から93番目に存在していたことから、この近傍の立体構造の変化がATPの結合と加水分解に伴って起ることが示唆される。 2.ミオシンをATPの非存在下でIAEDANSで修飾し、パパインで限定分解した。分解物から上記同様な方法でミオシン頭部の重鎖のC末端に位置する203残基からなるフラグメントを単離し、その全一次構造を決定した。このフラグメントのC末端部53残基には酸性アミノ酸はまったく存在せず、塩基性アミノ酸が13残基存在するという特徴的な構造をしていた。 3.現在、上記1と2のフラグメントの間に位置する50kDaフラグメントの構造分析を進めており、近い将来、砂のう筋ミオシン頭部の重鎖の全一次構造を決定できると考えている。
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