1.麻布美術館所蔵芝居絵馬(享保十五年)の修復処置前後を斜光照明装置で撮影した結果顔料層の剥離だけでなく画面の歪みも記録され同照明装置の効果が確認された。画面の剥離の甚しい部分とテカリのある部分の相互位置関係を考察出来、損傷部分の客観的な記録分布図の作成が可能になった。 2.各時代別彩色技法の劣化機構解明の一つとして青色顔料の岩群青、新岩群青、藍についての耐候試験を行い、その結果、藍がよいことが判明した。さらに漆塗装部の修理再生法として、摺漆と合成樹脂による比較を行い、ウエザーメーターで劣化後の光沢度と耐久性を比較した結果弗素樹脂クリヤラッカーが最も優れ、パラロイドB72、摺漆の順となり、シラン系合成樹脂としてSS101やゼムラック樹脂処理では漆面が白色化して不適当であることが判明した。 3.重文妙義神社総門、浅間神社の建造物彩色に用いられている顔料の材質を螢光X線、X線回折により組成を明らかにし、彩色層セクションの顕微鏡写真を撮影し、下地技法を解明した。また、アミノ酸分析法によって、三千本、鹿、兎など各膠の中のハイドロキシプロリンに着目し、その含有量から文化財彩色に用いられている膠の種類が判明する可能性がわかってきた。また、実体顕微鏡により近世板絵の彩色面を調査し、その技法が確認された。 4.近世以降の膠の強い厚塗り顔料層の浮上り剥落止めは処理法が甚だ困難であった。しかし、エルバックスE40(低重合度ポリエチレン醋ビ重合体)の20〜30%溶液を剥離面に注入し、そのまま一度乾かしてからシリコンシートを当て、約80°Cの半田ごてで再接着する熱溶融剥落止め材を開発し、人形彩色の層状剥離の接着、剥落止めに用いてよい成果を得た。
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