本研究の目的は、人間の音楽行動に関与する認知諸過程の研究をあらゆる角度から実行しやすくするための研究補助用ソフトウェア・システムの開発と、それを用いた認知心理学研究の遂行にあった。以下にこの2年間の成果の概略を記す。 1.音楽認知プロダクションシステムの作成。 本研究組織の研究分担者である桃内によって北大大型計算機センター設置の大型コンピュータ上に適応プロダクションシステムAPSHが作成された。しかし、当初予定されていた、実際の物理的音響を処理する入出力情報処理部分とAPSHの結合については、予定されていなかったいくつかの技術的困難点が明らかになり、その実現に遅れが出てしまっている。この点を反省し、現在は別の手法による統合的システム実現の可能性を探っている。 2.音楽認知モデル作成。 人間の音楽認知のプロセスを解明する努力は、本研究組織の代表者である阿部を中心にかなりの進展を見た。我々は特にメロディの処理のプロセスに焦点をあて、そこに関与するスキーマの特性の解明とモデル化に努めた。阿部と星野は、洋楽および邦楽の熟達者を被験者として用い、彼らのメロディ予測行為を詳細に分析した。阿部は、その結果から得られた「調性に基づくメロディ処理のルール」を上記のAPSH上にインプリメントし、ある音楽熟達者のメロディ予測行為をシミュレートしてみた。その実現から、研究補助用ソフトウェア・システムの改良・改善点を考察した。
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