雑種強勢・異数性・倍数性等の一年生植物の遺伝的に不安定な系に対して、遺伝的に安定な苗条原基を作出し、これを冷凍保存状態で長期保存し、各遺伝子型・染色体型について、随時必要に応じて取り出せる冷凍苗条を確保することを目的としている。現在、ハプロパップス正常型、異数体シリーズ、クレピス、トウモロコシ、イネ、アサガオ、タネナシスイカの苗条原基の作出を完了し、凍結保存実験を推進中である。冷却速度制御プログラム、凍結防止剤、凍結前処理の各種の組み合せについて、0℃、-5℃、-10℃、-20℃、-40℃、-80℃、-198℃の各温度条件で冷却および凍結を行い、生存と増殖の確認を行った。その結果、-0.5℃/minの冷却速度で、10%L-プロリンと10%DMSOの凍結防止剤を用いた場合に-20℃では100%、-40℃では約40%、-80℃では約5%について、凍結解除後の生存と増殖を確認している。クレピスでは低温による障害がひどく、0℃に冷却時点で95%以上が死滅してしまっているので、低温馴化をして凍結保存することを試みている。 単細胞からの凍結保存は凍結防止剤の浸透が効果的であることから、苗条原基の単細胞化を試みた。作出条件は、苗条原基を細かく砕き、100rpmの回転振とう培養装置にて2週間培養し、ほとんどが単細胞よりなる細胞群をメッシュにて選別し、更に振とう培養を続け、1週間毎に継代培養を行った。約1か月後に沈殿として生じた細胞集塊を回転培養に移すことにより再び苗条原基となった。この研究は1985年の遺伝学雑誌に掲載された。現在、上記の苗条原基の場合と同様に、この体細胞生活環の中に生じた単細胞群を用いて凍結保存を試みている。
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