一年生植物のうち一代雑種・雑種強勢等の遺伝子型、及び染色体の構造変異・異数性・三倍性等の特異な染色体型として成り立っているものは子孫へ遺伝させることは極めて困難である。これを解決するために、苗条原基法が新しく開発された(TanakaとIkeda 1983)。この方法は、凍結保存を行うために、従来、最も有効とされている茎頂を用いる方法と比べて、必要に応じていつでも凍結保存に移すことができる点、短時間で大量の凍結試料の作成ができる点、凍結後の回復で大量増殖し、随時、種苗の大量生産ができる点で有利な性質を持つ。 凍結保存材料として供試した70種中、52種で苗条原基が作出された。又、凍結保存後の染色体変化を調べるために、突然変異苗条原基の誘導を試みた。1つは、ハプロパップスの苗条原基をコルセミド処理し、回復後に増殖してきた苗条原基集塊を個々の苗条原基に分割することによって、四倍体苗条原基が誘導された。もう1つは、クレピスのカルスが染色体変異を多発することを利用して、カルスからの苗条原基誘導を試みた。そして、各種の構造変異、異数性、倍数性の変異苗条原基が誘導された。さらに、単細胞は凍害防御剤の浸透が効果的に行われるので、苗条原基の単細胞化を試みた。ほとんどが単細胞よりなる細胞群から再び苗条原基へもどす系が確立された。 以上の植物のうち、ハプロパップスについて凍結保存法が完成し、各種植物について凍結保存実験を進めている。凍結保存法は以下のとおりである。継代培養中の苗条原基を5%DMSOで2日間前培養し、プログラムフリーザーにて-40℃まで、-0.5℃/minの冷却速度で予備凍結を行い、直ちに液体窒素中に凍結保存する。回復は凍結保存苗条原基を37℃の温湯中にて急速融解し、元の培養にもどす。新しく回復してきた苗条原基は、親植物と同一の染色体型を維持していた。
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