本研究は、金属および半導体人工格子薄膜の断面構造を高分解能電子顕微鏡で観察するための10nm以下の切片を内部構造を破壊することなしに作製する技術を、超ミクロトーム法によって開発する事を目的としている。成否は実際に高分解能電顕観察を行って確認した。 研究は、金属蒸着膜による予備実験からはじめ、金属人工格子さらに半導体人工格子の順で進められた。結晶性の金属蒸着膜においては、包埋剤にQuatol812を使用し、刃先角度の小さなダイヤモンドナイフを使うことにより、コラム構造のトポロジカルな情報および各部における原子的構造迄を観察できる切片が得られた。非晶質構造の金属蒸着膜は、硬度がやや高いので、ナイフの刃先角度60度のものを使用する事により、極めて優れた切片を得る事ができた。その結果、スパッタ法による非晶質膜中のコラム構造が、組成の偏りに対応している事およびコラムの境界部に、微細な結晶粒が偏在している事などが突きとめられた。予備実験段階ですでに予想外の成果を得た。 本実験はCo-Sb人工格子からはじめた。各種の包埋剤およびいくつかの刃先角度の異るダイヤモンド刃を試験した結果:予備実験で使用したものが最良の結果をもたらす事が判明した。高分解能電顕観察によるモニターでは、観察できた事自体世界初の成果であったが、界面が原子的尺度で平滑ではない事や、各属(相)が高圧相でできている事など、世界をリードする知見が多く得られて、本手法が、高分解能電顕による断面観察用切片作製技術としてすぐれている事を裏づけた。Fe-Mnといったより硬い材料でも同様な結果が得られた。 半導体人工格子はGaAs/AlAs人工格子について実験を行った。へき開性のつよい材料なので、切るというよりは極薄にへき開するといった方が適切であるが、イオン研磨法などに比べ歩留りはやや落ちるものの照射損傷に害されない美しい写真が撮れる切片が作れる事が判った。
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