本試験研究費で設置した真空ホットプレス機が昭和60年1月から順調に稼動し始めて以来、約1年余りの期間に非晶質合金粉末および非平衡相結晶質合金粉末のホットプレス法による圧着成形挙動ならびに得られた圧着体の密度、組織、機械的性質、磁気的性質、熱的安定性などに関する多くの知見を得ると共にその結果を公表してきている。これらの結果を纏めると以下のようになる。 (1)Co-Fe-Si-B系非晶質強磁性粉末は750〜840Kの温度域で0.2〜1GPaの圧力下で約10分間プレスすることにより、5mmφ×1.7mmの円板状非晶質材を作り出すことができた。この塊状材は約96%の密度を有すると共に、硬さや磁気的性質はもとの非晶質粉末とほぼ同じであり、塊状化に伴う非晶質相固有の特性は劣化しないことが判明した。 (2)過冷却液体領域が結晶化温度以下の広い温度域で現われるPd-Ni-P非晶質合金粉末の圧着性と過冷却液体の粘性、比熱、エンタルピーとの関連性を調べた結果、過冷却液体の粘性が【10^(11)】ポアズ以下に低下する温度域では3秒の短時間でもほぼ100%の密度をもつ非晶質圧着体が得られることおよび得られた圧着体の比熱やエンタルピーは急冷したままの非晶質粉末と大きな差異はないことが明らかになった。 (3)Fe-Cr-Mo-C系の高炭素高合金鋼非晶質粉末は950℃〜1150℃の温度域で62MPaの加圧下で30分間プレスすることにより、99.7%の高密度の塊状材(10mmφ×8mm)を得ることができた。しかも、この塊状材は約0.2μm径の微小な合金炭化物をマルテンサイト母相中に均一かつ高密度に含み、10000〜14000MPaの高い硬さと粉末ハイス材に匹敵する良好な耐摩耗性を有すると共にその高い硬さが約700℃の高温域までほとんど変化しない良好な耐熱性を示すことが明らかになった。このように、液体急冷法によって作製した非平衡相粉末から得た圧着体は通常のプロセスでは得られない優れた性質を示すことが明らかになってきている。
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