FFT法による交流インピーダンス測定では0.5〜100KHzまでの測定をメモリーのサンプリング時間を改良し、低周波で0.001Hzまで下げた。これにより、低周波側の情報を確認することができ、孔食の発生や成長に関しては0.1Hz以下の低周波領域には格別な情報が無いことがわかった。結局、孔食に対するインピーダンスの情報は0.5〜10KHzの周波数領域で充分情報が得られることが明らかとなった。FFTの特徴は短時間に測定が可能であり、孔食発生の時間変化を追跡できることである。孔食は皮膜破壊と孔食成長の二つの過程から成立しており、FFTインピーダンス測定により分離した抵抗成分と容量成分はともに大きく変化することがわかった。特に皮膜破壊過程までは抵抗成分は減少し、容量成分は増大した。孔食の成長過程ではいづれの成分の変化も緩慢であった。しかしその時間変化は次式により表わされることがわかった。R(Ω・【cm^2】)=-35logt+154、C(μF・【cm^(-2)】)=0.9・【t^(1/2)】。しかしインヒビターが存在し孔食が発生しない場合には、R及びCとも殆んど変化は観測されなかった。このことから、インピーダンス変化は皮膜破壊に基づくと考えられ、孔食が発生する場合のインジケータとして使用可能であることがわかった。 有機インヒビターの開発についてはピリミジン系の誘導体について評価実験を行ない、ピリジン環の4位に酸素が入った場合はアルカリ溶液で、イオウが入った場合は酸性溶液で抑制効果が高いことがわかった。また非宮能原子団を付加しても抑制効果に影響はなく、抑制剤分子の立体構造よりは、金属への吸着能によって左右されることがわかった。その他の抑制剤の開発は種々試みたが、ローダニン系が最も秀れていた。この系は吸着というよりは表面に厚い皮膜を形成するいわゆる錯塩タイプである。しかし時として溝状腐食を起こす場合もあり、今後検討することにしている。
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