近年新しく開発された新制御圧延技術(TMCP)の適用によって、低炭素当量で高張力化を計ることができるようになり、そのようにして作られた鋼の使用が可能となれば、溶接施工の容易さに加え、高靭性という安全性の面からの利点も多い。しかし、新制御圧延鋼を船舶などの大型構造物へ適用するとき、通常行われている大入熱による軟化の生じることがある。現状では、その軟化の程度、軟化部の存在が構造性能にいかなる影響を及ぼすものかが明確でない。すなわち、軟化部の存在の許容範囲が明確でないところに実用上の問題があり、さらに、実施工における溶接条件の設定可能範囲も明らかでない。本研究では、このような観点から、主として造船用鋼に開発された新制御50キロ高張力鋼を対象とし、それの実施工への適用の可能性を明らかにすることを目的とし、構造としての設計の基本概念に立つ返って、溶接施工性と溶接継手性能の両面から検討を加えた。 新制御圧延鋼のHAZ軟化は、炭素当量Ceqに依存し、その程度を推定する評価式をCeqを基に提案した。さらにその軟化部の幅は板厚の約0.5〜1.0倍程度である。このような軟化部が存在する場合の継手としての静的引張強さを推定する算出式を理論的な解析を基にして検討した結果、工学的下限値を与える簡便式を導いた。それを用いることによって、継手の引張強さが母材の規格下限値を保証するには軟化の程度をどの範囲におさえるべきかを明確にし、さらに、必要な母材のCeqの下限値も明らかにし、応用範囲の明確化ができた。さらに、このような軟化部の存在が、疲労強度や曲げ耐荷能さらには、座屈強度に及ぼす影響について、詳細な実験と解析的検討を行い、引張強さの観点から許容される軟化の範囲では、いずれも特に性能の低下をもたらすものでないことが明らかとなった。 本研究の結果、船舶にTMCP型HT50鋼を用いる道がひらけた。
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