1)文化財染織品の螢光性天然色素の同定 一般に貴重な資料を非破壊法で研究する方法の一つとして、赤色や黄色の色素が螢光性の場合が多いことに着目し、表面の反射螢光スペクトルを測定する方法を検討した。紅花、キハダ、スオウなどは、大部分が退色していても明瞭な螢光スペクトルを求めることが可能であることがわかった。さらに重ね染の場合、たとえば紅花とキハダが共存のままでも両者の螢光極大波長に差があるので判別が可能である。また、表面の染料濃度を推定するために可視紫外部の反射スペクトルをとり、クベルカ・ムンクの式によって吸光度に比例するK/Sの値を求めた。K/Sの値と波長との関係曲線は、まず反射スペクトルのチヤートをデイジタイザーでトレースすることによりマイクロコンピュータに反射率と波長の関係曲線を記憶させ、クベルカ・ムンクの式で計算した結果をデイスプレイに表示し、ハードコピーをとる方法で結果を求めた。 2)江戸時代の黒袴の劣化状態の調査と劣化原因の検討 島津藩の下級武士の日常使用した袴で、劣化状態のいちじるしく悪いものについて、特に繊維自身の劣化が黒染によるかどうかを調査した。黒色染料については同定が困難であったが、媒染剤として鉄と共に銅が共存することが螢光X線分析から判明したので、同様な染色法による現代の布地について日光による劣化の度合を調査した。 3)絹や毛織物の草木染と防虫性との関連性 アイ染などをほどこした布地についてヒメカツオブシムシなどによる食害を研究した。食害は一定織物の食害による重量減少率、虫体重の調査、羽化率について検討した。羊毛は絹に比べて食害がいちじるしい。アイ染にはあまり防虫効果はないが、コチニール染は防止効果が認められた。
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