研究概要 |
昭和60年度に行った研究の概要は、以下の3項目に分類される。 1.【^1H】-NMRにおける新しいNOE実験法の開発。従来の方法では、特定のプロトンを一定の周波数で照射していたため、高い選択性が得られなかった。これを改善するために、照射周波数をある程度の幅をもたせて変調して実験することを検討し、その結果選択性を著しく改善することができた。更に従来法では連続した周波数で照射していたところをタイムシェアに切り替えることを考案し(time shared NOE)、極めて高い選択性を得ることに成功した。 2.multiquantum測定法の検討。relayed COSY,double relayed COSYの測定の最適条件を確立した。また新たに提唱された2D-HOHAHA(homo Haltman Hahn)法の実行に必要なハードウェアの改良を行うとともに、パルス系列を作成し実験を行った。その結果2D-HOHAHA法は、複雑な化合物の構造決定に極めて有力な手段であることが判明した。また新たにphase sensitive DQF(double quantum filter)法を考案し、その実験条件の検討を終了し天然物質の構造解析に応用した。 3.選択的COSYの開発。2次元NMRは構造解析に有力な手段であるが、測定時間が長くかかり、また微量な試料では実験が困難であるという欠点がある。これを改良し、効率的な測定を可能にするselective COSY,selective relayed COSYを考案した。 以上説明した新手法の開発、応用によって、複雑な構造を有するポリエーテル物質N6270、分子量1300を超えるnotonesomycinをはじめとして数種の抗生物質の構造を決定することに成功した。
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