近年生物学において組換えDNA技術の果す役割はきわめて大きい。組換えDNA実験は通常目的とする蛋白質に対するcDNAクローニングからはじまるが、mRNA含量が低い場合のcDNAクローニングは容易ではなく、この段階が組換えDNA研究の最大の障害点の1つとなっている。本研究では特異ポリソームの免疫沈降法とそのcDNAクローニングへの応用を検討し以下の成績を得た。 1.ラット肝ホモジエネートの遠心上清と沈殿よりマグネシウム沈殿法で遊離および膜結合ポリソーム標品を調製した。両標品共ポリソームパターンおよび無細胞蛋白合成実験より高い無傷性が示された。分泌蛋白質の80%以上が膜結合ポリソーム標品で合成され、サイトソール蛋白質の80%以上が遊離ポリソーム標品で合成され、両者はよく分離されていた。 2.遊離ポリソームの免疫沈降によりオルニチントランスカルバミラーゼmRNAを約50倍に精製した。精製mRNAよりcDNAライブラリーを作成しcDNAクローニングを行った。全長に近いクローンの塩基配列を決定し、全アミノ酸配列を推定した。精製mRNAを用いるためスクリーニングは容易かつ効率よく行うことが出来た。 3.3-ケトアシル-CoAチオラーゼと3-ヒドロキシアシル-CoAデヒドロゲナーゼのmRNAを同様の方法でそれぞれ40倍および25倍精製した。これらのmRNA標品を用いて両酵素mRNAの約80%を含むcDNAクローンが得られた。したがってこの方法は多くの蛋白質に適用できることが示された。 4.本法を非常に大きい蛋白質(サブユニット分子量16万)のmRNA精製に適用したところ、mRNAがよく精製されなかった。したがって大きいmRNAの精製にはさらに工夫が必要である。
|