心不全の発症機転及びその基礎となる心筋の病態については未だよく解明されていない。本研究は冠微小循環モデルを作成し、心筋虚血に基づく心不全発症機転を主として心筋カテコラミン、交感神経β受容体の変動の面から検討した。冠微小循環障害モデルは犬の左冠動脈内に直径15μmのマイクロスフェア(MS)を大量に注入塞栓することにより作成した。本モデルにおいて、MS注入後の急性期には多量のアデノシン遊出が少なくとも3時間は持続し、散在性微小心筋虚血がMS注入量に応じて増強することが明らかとなった。また組織学的にも細胞内浮腫、ミトコンドリアの障害、グリコーゲン顆粒の消失等明らかな虚血性変化を認めた。一方慢性期(1週間後)には、冠血流量はほぼコントロールに復し明らかな虚血、壊死は認めず冠予備のみ低下した状態が観察された。心機能面よりの検討では急性期には心拍数増加とともにdp/dt maxの低下、等容性弛緩期圧下降脚の時定数Tの延長を認め明らかな心機能低下を認めた。一方慢性期にはdp/dt maxは対照時と有意差がなく拡張機能のみの障害が観察された。また、β刺激に対する反応性も対照時と同程度に維持された。この時、心筋カテコラミンの枯渇とともにβ受容体の代償性増加が認められ、心不全前段階と考えられる肥大心と同様の傾向を示すことが明らかとなり、心不全前段階の共通した特徴と考えられた。すなわち、慢性期回復後の微小循環障害モデルは、β受容体の増加により内因性交感神経活性の低下が代償されている潜在性心不全モデルと考えられ、この代償性増加の破綻は心不全発症に重要な役割を果たす可能性が示唆された。
|