研究概要 |
骨組織内の水分子の運動性は、水分子とその周囲の高分子化合物との相互作用に規定される。したがって、水分子の運動性の指標となる【^1H】-NMR緩和時間は水分子の存在環境、すなわち、骨組織の微細構造に依存する。また、【^1H】-NMRにより骨組織中の水分子、脂質の量を測定することができる。【^1H】-NMRを用いた骨組織の病態解析を行うことを目的とし、昭和59年度の本研究計画に対する補助金にて開発された【^1H】-NMRシステムを用い、本年度は得られるデータを解析するための基礎実験を行った。 〔方法〕 椎間板の軟骨組織を試料とし、同組織中でコラーゲン,プロテオグリカンなど高分子化合物と相互作用を持つ水分子のNMR緩和時間を決定する要因に検討を加えた。この研究成果をふまえ、種々の週齢の家兎大腿骨より得た皮質骨、海綿骨の【^1H】-NMR測定を行い、その加齢変化に検討を加えた。 〔結果〕 軟骨組織中の水分子の緩和時間は1成分であり、その値は高分子化合物との相互作用をよく反映した。また、【T_1】値はコラーゲン含有量に、【T_2】値はグリコサミノグリカン含有量に大きく依存した。皮質骨の【T_1】値は一成分であり100〜300m sec.に分布した。海綿骨の【T_1】値はlong【T_1】とshort【T_1】の2成分に分けられた。long【T_1】値は400〜1200m sec.に分布したが、short【T_1】値は100〜120m sec.で大きな変化を示さなかった。皮質骨の【T_1】値、海綿骨のlong【T_1】値を与える【^1H】-NMR信号は水分子に由来し、海綿骨のshort【T_1】値を与えるそれは脂質に由来すると考えられた。皮質骨の【T_1】値、海綿骨のlong【T_1】値はそれぞれの組織中の水分含有量によく相関した。しかし、同じ水分含有量では皮質骨の【T_1】値は海綿骨のlong【T_1】値よりも100m sec.程度短い値をとることがわかった。また、骨組織の【T_2】値には一定の傾向は認められなかった。
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