従来の合成法を簡潔化したone pot法により、Hematophrphyrin(Hp)-HC1からHp-diacetate(Hp-Ac)とHp-disilate(Hp-Si)を合成した。Hp-Acは現在一般に使用されているHp誘導体(Hp-D)のアルカリ処理前の主成分であり、Hp-Siは全く新しいHp誘導体である。両物質は、数種のポルフィリン体の混合物であるHp-Dと異なり、単一化合物である点が特徴である。 Hp-AcならびにHp-Siの化学式はそれぞれ【C_(38)】【H_(42)】【O_8】【N_4】ならびに【C_(46)】【H_(66)】【O_6】【N_4】【Si_2】、分子量は682ならびに826、吸収波長(Soret帯)はともに398nm、最大螢光はいずれも626nmであった。 これら両物質の体内動態ならびに腫瘍親和性をみるため、AH109A皮下腫瘍を移植したラットにHp-DならびにHp-Siを10mg/kgづつ静脈内投与し、経時的に諸臓器の凍結組織切片におけるポルフィリンを螢光顕微鏡にて観察した。なお本実験では、前年度の結果(Hp-Siに比してHp-Acの腫瘍集積性が劣る)を勘案し、Hp-Acの投与実験を割愛した。 腫瘍組織では腫瘍周辺部に限局して赤色螢光を散在性に認め、Hp-D群では投与12〜24時間後に強い螢光をみたのに対し、Hp-Si群では螢光はやや弱く48時間後には螢光を認め得なかった。これに対して腫瘍周囲の正常筋組織には、6〜48時間にわたる観察期間中に両群ともに螢光は全くみられなかった。一方他臓器についてみると、肝と脾では高度の螢光をび満性に認め、Hp-D群では投与12〜24時間後にピークを示し、Hp-Si群では48時間後にも強い螢光をみた。肺と睾丸では両群ともに弱度の螢光を持続的ににめ、腎と腸ではほとんど螢光を観察できなかった。 すなわちHp-SiはHp-Dと同様に周囲正常組織に比較すれば腫瘍集積性が高く、とくに腫瘍周辺部に集積することが分った。しかし、肝や脾の如き網内系に富む臓器にはより高度の集積がみられることは、ポルフィリン系共通の性質であり、更に検討の余地があると考えられた。
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