研究概要 |
前年度までの研究によって、塩酸ヘマトポルフィリン(Hp-HCl)からヘストポルフィリン誘導体(Hp-D)の主成分であるHp-diacetateと、全く新しい誘導体であるHp-disilateとを合成することができ、これら両物質の物理化学的性質を明らかにした。またHp-diacetateとHp-disilateは、培養ヒト癌細胞ならびにラット腹水癌細胞への取りこみがHp-Dと同様に認められるが、取りこみの経時的変化には各物質に特有のパターンがあることが判明した。 以上の結果をふまえ、Hp-diacetateとHp-disilateの腫瘍親和性をさらに追求するため、本年度は全身投与時の生体内動態を定量的に観察した。すなわち、皮下に腹水肝癌を移植した担癌ラットを被検体とも、各物質を頚静脈より注入した後、経時的に腫瘍,腫瘍周囲筋組織,肝,脾,肺,腎,睾丸のポルフィリン濃度を96時間にわたって測定した。 その結果、Hp-D,Hp-diacetateならびにHp-disilateの組織内濃度の全般的傾向は、肝>脾>腫瘍・腎・肺>睾丸・筋の順であった。経時的変化は、前二者が漸減傾向をとるのに対し、Hp-disilateは持続停滞する傾向がみられた。一方、、周囲筋に対する腫瘍内濃度(T/M比)をみると、Hp-DとHp-disilateはそれぞれ7.5ならびに6.6の値を24〜48時間にわたってとるのに対し、Hp-diacetateは1.7〜1.0と低値を示した。 以上により、本研究において新たに合成したHp-disilateは、従来から腫瘍親和性物質として用いられてきたHp-Dと同程度の腫瘍親和性を有し、かつ混合物であるHp-Dと異なって単一化合物であるという利点をもつため、癌の診断と治療に有用な物質になると考えられた。
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