唇顎口蓋裂患者における鼻咽腔閉鎖機能診断を目的とし、本年度は主として術後鼻咽腔閉鎖機能不全症例の病態分析を行った。 1.超音波検査法による咽頭側壁の形態および運動様式の解析:電子走査方式による咽頭側壁のリアルタイム像では、正常者と比較して明らかな運動性の変化が認められた。すなわち偏位量の減少、機能による運動様式の変化を示す所見が得られた。さらに鼻咽腔閉鎖部位における咽頭側壁の時間-偏位曲線(Mモードecho曲線)では、定量的分析から正常者に比較して運動量・発声との時間差、運動速度において運動性の低下を示していた。 2.鼻咽腔ファイバースコープによる解析:超音波検査法による側方からの検索と同時に鼻腔側から、鼻咽腔閉鎖の動態を観察した結果、術後鼻咽腔閉鎖機能不全症例では、機能により閉鎖度に差を認め、軟口蓋運動と咽頭側壁運動の協調についても、正常人とは異なった所見であった。また不全症例に使用しているスピーチエイドを装着した場合、症例により異なるが、運動性の改善する所見も認められた。 鼻咽腔閉鎖機能不全の病態につき、鼻咽腔ファイバースコープ所見と咽頭側壁の超音波像を総合的に分析したところ、術後鼻咽腔閉鎖機能不全は単に軟口蓋の短縮あるいは運動性の低下によるものではなく、咽頭側壁を含めた鼻咽腔部全体の運動性の低下が最も重要と考えられた。特に咽頭側壁運動の定量分析により、閉鎖機能不全の程度の判定も可能であった。またMモード法による曲線の分析から術後鼻咽腔閉鎖不全症例の分類が可能で、他のデータとともに予後の判定にも役立つと考えられた。さらに運動解析にあたって時刻表示を併用した分析では、軟口蓋と咽頭側壁運動の協調性につき有用な結果が得られたが、症例により差異を認め、さらに症例を重ね分析を行う必要があり、次年度も引き続き検討する予定である。
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