非古典的β-ラクタム系抗生物質の代表的な化合物であるチエナマイシンは幅広い抗菌活性を有することにより注目を集めているが菌よりの産出量が極めて微量であり、医薬品として供給するためには合成法の確立が必須の条件となっている。今回その合成にあたり種々の検討を行いその結果としてチエナマイシンの不斉合成に成功した。また、その間に以下の結論を得た。 1.ベンジルクロトネートとニトロンの1、3-双極子環状付加反応を鍵反応に用いることによりチエナマイシンの5、6、8位の立体化学の制御が可能となった。 2.ニトロンの窒素に光学活性な化合物をつけることにより、1、3-双極子環状付加反応において不斉誘起の起こることが判明した。また取られた付加体の光学純度も非常に高いものであった。 3.中性条件下にイソキサゾリジン体を還元的に開裂し、次いで閉環反応を行うことにより容易にβ-ラクタム環の生成することが判明した。 以上によりチエナマイシンの立体選択的不斉合成に成功したが、6位のヒドロキシエチル基を潜在的医薬品として期待されうるアミノ基へ変換することを検討した。すなわち二級水酸基を脱水したのち、オゾノリシス反応に付しケトン体へと導き、次いでオキシム化後接触還元反応を行った。この結果、本還元反応は立体選択的に進行し、望むべき3、4-シスの3-アミノアゼチジノンが生成することが明らかとなった。すなわち本還元反応においては4-位の置換基の逆側より水素の攻撃が起ったものである。 以上のようにカルバペネム系抗生物質合成においてチエナマイシン型側鎖よりアミノ側鎖への変換反応にも成功した。
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