現在用いられている人工肝臓は、主として人工腎臓の技術を転用することによって肝臓の解毒などの機能を代行するものであり、肝臓の最も重要な機能である代謝機能を代行することはできない。この点から、肝細胞培養系を利用して代謝機能を代行し得る人工肝臓を開発することが求められている。昨年度の研究によって、肝細胞をアルギン酸カルシウムのゲルで包埋することによりその寿命を格段に延長させ得ることが明らかになったので、本年度はこの成果を基礎として、回転円板型という新しい型式のモジュールを開発し、その性質をin vitro実験および動物実験により評価した。 ラットから分離した肝細胞は薄いフィルム状のアルギン酸カルシウムのゲルに包埋した。これを半径6cmのステンレスのメッシュの上に幅1cmのドーナッツ状に成型し、この円板30枚を水平回転軸の上に支持して、長さ20cmの外筒内に収めた。血液(in vitro実験では潅流液として用いた培地)は外筒の底部を流れる間にゲルと接触し、その中の肝細胞との間で物質交換が行われる。in vitroの潅流実験では、致死速度定数と基質の代謝速度定数はともに円板の回転数の増加とともに大きくなることが判明した。血行動態的に急性肝不全を作成したウサギの門脈-頚静脈バイパスの途中に試作モジュールを設置した体外潅流実験では、肝不全ウサギの血中のアンモニウム濃度の増加は有意に抑制され、またモジュールの出・入口ではアンモニウム濃度の著しい差が認められ、肝細胞は十分の代謝機能を果たすことが確かめられた。これらの結果から、試作した人工肝臓は代謝機能を補助する新しい型式として有用であると結論された。
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