0.4〜5KeV領域軟X線の生物作用の研究は、放射線生物作用初期過程の解明にとって、極めて重要な研究分野である。特定の波長を選ぶことにより、細胞内の特定部位・分子にのみ損傷を与えることが可能となるからである。高エネルギー物理学研究所・放射光施設の稼働により、この領域の軟X線の利用が世界で初めて可能となったが、この領域の放射光を細胞に照射するには、【◯!1】物質中での減衰が大きく、空気中での照射は不可能、【◯!2】本質的に点光源であって、そのままでは2次元の広がりをもつ生物試料の一部のみしか照射できない、という2つの問題を克服しなければならなかった。 本研究は、【◯!1】試料照射槽を真空系とし、槽内空気をヘリウム・ガス等に置換しうる設計とする、【◯!2】試料を照射ビームに対して垂直平面内で走査する、ことでこの問題を解決する生物試料照射槽の試作を目的とした。まず、ビーム・ライン(超高真空)と照射槽の間に差圧排気系を設け、試料槽内での真空(【10^(-6)】Torr)ガス相の安定を確保した。走査に関しては、真空の維持と機構の簡素化を図って照射試料槽全体を駆動することとし、強化アルミの使用により軽量化した結果、50×50mmの全走査域について、最大10mm/秒の走査速度を得ることができた。駆動は大型パルス・モータにより行い、コンピュータ制御を可能とした。試料槽内に同時に着装できる試料は、35mmφのシャーレまたは小型培養フラスコを6個とし、コンピュータ制御により任意の試料を連続して照射できる機構とした。その結果、照射に要する時間を大巾に短縮しえた。試料槽上・下流に光電子測定装置を設け、試料位置における光強度を測定しうる機構をも併設した。 以上のすべての駆動ならびに照射に必要な外部情報の収集制御はパーソナル・コンピュータにより行われる。それに必要なソフト・ウエアを開発し、目的とする作動を確認した。
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