我々はピコ秒レーザー閃光分解装置を駆使して、網膜の光受容物質(ロドプシンなど)の光吸収直後に起こる光化学反応を研究している。単一パルスセレクターは、そのピコ秒レーザー閃光分解装置のうち、レーザー発振器で発生するピコ秒パルス列(ピコ秒パルスが10ns置きに十数本連なったもの)から、単一のピコ秒パルスを選択する装置である。 従来の単一パルスセレクターは、高電圧トリガーを発生させる部分にクライトロンを使用していたが、この部品は、長時間使用時や、湿度の高い時に動作が不安定であった。そこで我々は、松井製作所と共同で、クライトロンを使わない安定度の高い単一パルスセレクターを開発した。 まず、高電圧パルス発生部は、従来の主要部品であったクライトロンに代わり、継時的変化が少なく、ジッターの少ない高電圧矩形波の得られるアバランシェトランジスターを60個接続した回路を用いた。また、高電圧パルストリガー部分については、高電圧パルス発生部を駆動する高電圧電源と、トリガー部分を駆動する電源を独立させた(2電源方式)。これらの改良によって、切出しタイミングの安定性が向上し、十分な切出し効率が得られるようになった。また、長時間使用に対する耐久性がよくなった。 このように改良された単一パルスセレクターを用いて、ウシロドプシンの光化学初期過程の分子機構の研究を行った。発色団を11シスレチナールに固定した七員環ロドプシンを用いた結果から、フォトロドプシンの生成段階で、異性化が完了していることがわかった。また、ロドプシンを重水中に懸濁した試料を用いた。その結果、フォトロドプシンの生成、崩壊過程に重水素効果がみられなかった。従って、この段階では、プロトン移動が関与していないことが示唆された。
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