近年、パーキンソン病・小脳性運動失調症・筋ジストロフィー・脳卒中後遺症などの、運動機能の障害を伴う難病治療に対する関心が高まり、早期診断のための新しい運動機能検査方法の開発が望まれている。本研究では、運動機能障害者に対する薬物治療やリハビリテーションの効果の定量的かつ客観的な評価と、パーソナルコンピュータによる鑑別診断を可能にするための、2次元手動制御系を用いた新しい運動機能検査システムの開発を目的とした。 まず、パーキンソン病と小脳性運動失調症の2つの疾患が随意運動の予測制御機能に及ぼす影響を、1次元手動制御系において明らかにした。その結果、学習過程、操作量の速度のパワースペクトルやコヒーレンシィに注目すれば、疾患の鑑別診断にとって有効な指標となることが明らかとなった。 ついで、1次元手動制御系における目標入力に対する適応性に関する研究を行ない、これまで提案されているモデルによっては説明しにくい周波数応答を、むだ時間を含む線形系に対する出力レギュレータ・モデルを構成することによって非常によく近似できることを示した。 また、信号の上下および左右方向の極性を反転させる要素を制御対象とする2次元手動制御系を用いた実験を行ない、人間オペレータには、制御対象の極性反転の方向によってその動特性が異なること、すなわち異方性が存在することを明らかにした。本研究で提案したような2次元手動制御系を用いた検査システムは、従来の臨床神経学的検査方法にはなかった視覚情報と体性感覚情報の統合機能の定量的・客観的な検査が実行でき、計算機による自動診断アルゴリズムを導入することにより、さらに実用的な検査システムとなることが期待される。
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