鎮痛剤として優れた特性(速効性、持続性)を有するのみならず、胃障害を全く誘発しないサリチル酸配糖体の薬理・薬剤的特性の検討ならびに植物に特有な配糖化機能を活用した細胞培養系による配糖体の大量生産法を開発した。 1.大量生産法の開発 30μmole以上のサリチル酸投与は、アカメガシワ培養細胞に毒性を示すことから、細胞選抜を行い4系統のサリチル酸耐性の高配糖化株を得た。また、サリチル酸投与後のサリチル酸-O-グルコサイドの生成ならびに配糖化酵素の活性の経時変化を検討した結果、投与後8時間目以降に配糖体量、酵素活性ともに上昇し、配糖化酵素は誘導酵素であることが判明した。さらに、配糖化酵素が遺伝情報系のどの段階で制御されているかを調べ、サリチル酸配糖化酵素の合成系は核のDNA支配を受けていることがわかった。一方、アカメガシワ培養細胞は配糖化のバイオリアクターとして長い期間利用でき、約2週間投与可能であったので、誘導酵素の性質を活用した連続投与法により大量生産(配糖化率76%、3.2g/3l培地)を実施することができた。 2.サリチル酸配糖体の薬理・薬剤的特性 サリチル酸が胃壁から吸収されて胃酸のback diffusionをもたらし、副作用の胃障害をひき起すと考えられている。一方、サリチル酸-O-グルコサイドは酸、アルカリに比較的安定で、ほとんど胃から吸収されないことから、配糖体の形での投与法が胃障害をひき起さない理由の一つと考えられる。また、サリチル酸-O-グルコサイドを経口投与した場合、配糖体、アグリコンいずれもその血中濃度は、サリチル酸投与に比べ低い値を示した。しかし、サリチル酸-O-グルコサイドとサリチル酸ナトリウムの静脈内投与により、その鎮痛作用に相乗効果が認められたことから、水解後の両薬物の相互作用が重要な因子と考えられる。
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