癌転移の各相における癌細胞側の形質と宿主細胞側の要因の相互作用に関する主な研究成果は次の通りである。 1 FM3A乳癌細胞の高肺転移株は多量のヒアルロン酸を作るが、これと特異的に結合するプロテオグリカンが血管内皮細胞基底膜に存在する(木全)。 2 血行性転移形成に癌細胞の血小板凝集能に関与することを各種の血小板凝集反応阻止物質の転移抑制から確かめた(金城、鶴尾)。 3 肺転移性腫瘍は正常肺抽出物(増殖因子)によって細胞増殖が促進される(鶴尾)。 4 n-酪酸処理で低転移性腫瘍の転移能が可逆的に促進され、基質への接着能、細胞凝集能、ある種の酵素活性の増大を認めた(竹永)。 5 癌細胞相互の結合因子(熱耐性、70Kdの糖蛋白)は細胞島形成時は細胞膜上に極性の局在を示し、解離時には細胞膜上発現しない。自由細胞型癌細胞では結合因子の合成欠損があった(石丸)。 6 漿膜単層培養に添加した癌細胞培養上清または癌性腹水は細胞間隙を離開させ、癌細胞を重層すると漿膜細胞層下への浸潤が増加する。癌細胞を腹腔食細胞と共に前培養するか、あるいは活性酸素に短時間処理することによって癌細胞の浸潤能は増進し、この増進効果はいずれも活性酸素消去剤で抑制される(明渡)。 7 原発巣、転移巣の腫瘍血管はいずれも血圧の自動調節能を欠如する特性を示す(鈴木)。 8 ラット肉腫の腫瘍内へのN-CWSの投与は、腫瘍特異的T細胞により活性化したマクロファージを中心とする随伴免疫を増強する(小倉)。 9 高抗原性癌摘出後の転移抑制には特異的エフェクターが、低抗原性癌摘出後の転移抑制には非特異的エフェクターの関与を認めた(細川)。 10 MM48乳癌細胞の局所リンパ節転移の推移は局所リンパ節に生ずる免疫調節細胞の出現に左右され、抑制性T細胞の出現がリンパ節転移の成立に関与し、抑制性T細胞の生成阻止が転移死を防御することを認めた(橘)。
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