本研究は、これまでの癌に係わる蛋白生化学・酵素生化学の蓄積と経験を基盤に、腫瘍遺伝子産物やその標的蛋白の細胞内における機能これらの蛋白の化学発癌における動向、さらには癌に特異な代謝偏倚や膜偏倚に演ずる腫瘍遺伝子産物、その標的蛋白の役割などを生化学的に解析することを目的としている。以下に本年度の研究実積を上記項目別に記述する。 腫瘍遺伝子産物の一つ蛋白チロシン残基キナーゼについては、武田がマウスの肝と癌から得たチュブリンキナーゼの生理的役割を明らかにすべくラット脳でこの酵素を解析、これが細胞膜に局在、また多彩な分子種を含むことを見た。立木は蛋白チロシン残基ホスファタービの解析を続け、ラット肝の可溶画分に、分子量3万でチロシン残基への特異性がきわめて高いもの、【Mg^(2+)】が活性に必須で分子量4万のもの、分子量が10万を超えセリン残基をも脱リン酸するものの3種類が存在することを明らかにした。平井は腫瘍化細胞が産生する成長因子であるTGFγ2を研究し、細胞内にあるものは正常細胞のものと性質が変らないが、腫瘍細胞が外へ分泌するTGFγ2の性状の変化しているという興味ある観察を行った。腫瘍遺伝子が活性化されるとそのシグナル伝達にも役を演ずるのはリン酸化である。牧田は癌に特徴的なリソソーム酵素のリン酸化を調べ、カテプシンにおいてリン酸化は糖鎖と蛋白ユアの双方に生じていること、蛋白ユアのリン酸化はセリン残基においてであり、in vitvoではCAMP存在モナーゼでこれを達成できることを明らかにした。田中は癌に特徴的なアイソザイム変換を遺伝子レベルで調べ、ピルビン酸キナーゼの変換は転写・翻訳双方のレベルで起り得ることを明らかにした。また坪井によればフマラーゼの癌性変化は翻訳のレベル、あるいはその後の過程で生じるという。ただしいずれも腫瘍遺伝子がどのように係わるかはわからない。
|