パポーバウイルスがん遺伝子を用いて、がん遺伝子発現調節機構、がん遺伝子産物の機能およびその機能の細胞側標的因子を明らかにすることを目的に以下の研究を行った。 1.ウイルスがん遺伝子発現の調節機構 BKウイルスのがん遺伝子の発現調節領域の構造と機能の解析を進め、68塩基対の繰返し構造を1個にするとトラニスフォーム北が著しく上昇することを明らかにするとともに、68塩基対内に存在する転写活性に必須の配列を明らかにした。また68塩基対の上流にも転写活性に関与する配列が存在することを明らかにし、転写調節に働くDNA構造の全体像が次第に明確なものとなりつつある。 2.ウイルスがン遺伝子産物(T抗原)の機能、 パポーバウイルスは複数個のがん遺伝子を持ち、個々の遺伝子機能を明確にする必要がある。これまで機能が明確でなかったマウスポリオーマウイルスの小型T抗原につき、それが核に分布することおよびトランスフォーメーションに関与していることを、そのcDNAを用いて明らかにした。 T抗原のウイルスDNA複製機能を解析するため、in vitroのDNA複製系において機能する因子の精製を進め、DNA合成開始点の近傍に結合する細胞蛋白質の存在を明らかにした。 3.ウイルスがん遺伝子産物(T抗原)機能の細胞側標的因子 細胞側標的因子の解析は、一つはウイルス遺伝子機能を変化させることにより細胞遺伝子発現の変化を探る方向:一つは細胞遺伝子の変化させることにより、ウイルスがん遺伝子機能への反応性を探る方向で行っている。しかし明確な手掛りは得られず、研究方法の検討を今後の問題として残した。細胞がん遺伝子機能との関連も今後解析していかねばならない課題である。
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