ホルモン依存性乳癌(TP DMT-4;T4と略)のエストロジェン(E)とプロジェステロン(P)存在下での長期継代及び酵素処理遊離細胞移植により、自律性亜株を樹立した。亜株にはE受容体(ER)とPRの両方を消失しているものとERを所持しPRを消失したものがあった。臨床的に見られるER陽性内分泌療法抵抗性乳癌でのERの意味を解明する目的で、T4とER陽性自律性亜株の間でERの機能・物理化学的性質を比較研究した。細胞質ERのステロイド特異性プロフィルは両株で同じで、ERからのEの解離と分子サイズの変化の追求から、活性化過程にも差がみられなかった。ERの貯蔵部位とも考えられているミクロソームERについても、Eとの結合特異性に関して差がなかった。ERの機能発現には活性化ERの核内でのクロマチントの相互作用が必須であることを考慮して、核内ERの性質を比較した。活性化ERとDNAセルロースの結合及びクロマチン結合ERの分子サイズに両株間で差がなかったが、活性化ER-クロマチン複合体とEの結合力はT4よりも自律性亜株で2倍以上強く。これを支持して、上記複合体からのEの解離が自律性株で有意に遅かった。E作用の1つとして、T4乳癌ではEによりPR合成が誘発されるが、ER陽性自律性亜株では、誘発されないことを考えると、この自律性乳癌では、ERとDNAの相互作用以降の段階に障害があり、Eによる調節が起らないと推察される。このことはヒト乳癌でもERの有無だけでなく、ERの機能も含めて検査することの重要性を示しているので、その技術の開発が望まれる。なお、このようなER機能の障害と自律増殖の関係は今後の課題である。現在までの成果では、乳癌ウイルス(MTV)情報のDNAへの組み込みやプロMTVの発現状態、さらに自律増殖能の獲得に伴なう染色体の変化との間で一定した関係が見つかっていない。
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