本研究の目的は新しい癌遺伝子をもっと思われるウイルスの分離の試けにはじまり、ウイルス癌遺伝子およびその産物の構造と機能の解析および細胞構成成分との相互作用の解明など広範囲に亘っており、初年度の本年にはそれぞれについて下記の成果を挙げた。 後藤は、ニワトリに腎癌を誘発するウイルス4株、急性骨髄性白血病を誘発するウイルス1株を野外発症ニワトリから分離した。 培養線維芽細胞をトランスフォームし、ヒヨコに接種すると比較的長い潜状期を経て肉腫を形成する一株について河井はウイルス学的、分子生物学的解析を行い、そのもつ癌遺伝子の同定に取り掛りつつある。 癌遺伝子の構造と機能に関しては竹家はsrc遺伝子に関し細胞性src遺伝子産物とウイルス遺伝子産物の構造上の差異と腫瘍原性の関係を明らかにすると共に、遺伝子工学的手法を用いて大腸菌で発現させたsrc遺伝子産物が燐酸化やミリスチン酸化を受けていないにも拘らず、動物細胞でつくられたもの同様、チロシン特異的蛋白燐酸化酵素活性をもつことを明らかにした。 また河井は広く利用されている変異株68のsrc遺伝子の構造を明らかにし、独立に存在する2つの変異が温度感受性の に必要であることを示した。 近年、ある種の癌遺伝子産物がチロシン特異的蛋白燐酸化酵素活性のほか、フオスファチジールイノシトールの燐酸化活性をもつことを示唆する報告が出されていたが竹縄はトランスフオーム細胞中の活性は上昇しているが、癌遺伝子自体にはその活性は無いことを明らかにした。 口野はv-srcによるトランスフオーメーションに伴って細胞性myc遺伝子の活性化が起ることを見い出すと共に新しい関連遺伝子がトランスフオーメーションの調節に関与する可能性を示唆した。 清木は、HTLVのPx領域がつくる産物の機能を解析し この産物が直接HTLの発症に果している機構について考察した。
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