目的 ヒト乳癌のウイルスによる発症機構の解明はマウスをモデルとして発展して来たが、白血病と異りマウスの成果をヒトに外挿することは依然として困難である。最近ヒト遺伝子中にMMTVのプロウィルスゲノムの存在が確認されたが発癌における役割や、オンコジンとの関係も依然として未解決である。この研究の隘路はヒトとマウスの発生学的遠隔性にあり、この間隙を埋める動物の実驗モデルの開発が急務である。本研究の目的は、8人の研究者が協力してヒトと各種動物の乳癌ウィルスの探索と、ウィルスによる乳癌発生機構の一般的法則を確立することにある。 成果 1.MMTVの発癌性の檢討 (1)【II】-TESマウスは大量のMMTVを産生しながら乳癌嫌発系であるが、他の嫌発系マウスとの雑種では高率に乳癌が発生することを発見し、ウィルス産生と乳癌発生が別の遺伝子支配を受けていることを示唆した。(2)MMTV-LTR-ORF遺伝子産物の精製とその抗血清の作製に成功した。LTRはMMTV遺伝子の制御を行っているが、その産物の機能は不明であり、その解明に有力な手段を獲得したことになる。(3)乳癌好発マウスでは嫌発系と異なりリンパ球にMMTVの発現があることを発見し、MMTVの感染経路にリンパ球が関与していることを示唆した。 2.マウス以外の乳癌について 我々が発見したスンクス及びラット乳癌ウィルスについても非常な進展があった。即、前者の細胞融合能がデキサメサゾンで著明に昂進するこよりMMTVと同様な遺伝子制御機構が働いていることを明らかにした。後者の遺伝子解析では、ミラルジヤ、マウス 伝子にも共通の塩基配列があることを発見し、その周辺のオンコジンの有無を檢索中である。 3. ヒト乳癌とMMTVについて MMTV-gp52に対する単クロン抗体がヒト乳癌特異抗原と反応することを発見した。多数の手術材料について、その抗原発現の有無を檢討し、抗原が分子量5万であることをつきとめた。早期乳癌の診断への応用の可否を檢討中である。
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